僕は必ずその少し斜め下を行く

遊星より◯◯をこめて

GRAND STATION

今年も残すところ1ヶ月を切りました。

年忘れとは言うものの、忘れられないことばかりなのが人生。
今回は忘れられない漫画をご紹介。


グランドステーション
上野駅〜鉄道公安室日常〜
池田邦彦
講談社コミックプラス


かつて国鉄内に存在した鉄道公安(≠警察)なる組織に採用されたある若者の物語。
いまだ東京の玄関口の一つであり続ける上野駅。まさに人の数だけドラマあり。昭和の上野駅は今以上にドラマの宝庫だったことでしょう。
作品の中心を貫く『郷愁』という柱。
青年は他人の過去に向き合う鉄道公安という職を通じて自らの過去に向き合っていきます。


この漫画が刊行された当時、私は前職で奇しくも上野駅に関連するミッションに従事しておりまして、毎日上野駅におりました。
サボって構内をブラついていたところ、本屋さんの紹介コーナーでたまたま本作を発見。
上野駅が舞台の漫画、上野駅の本屋さんが推さなかったらウソです。

でもそのときは四六時中ミッションに追われていてたので漫画の存在など翌日には記憶の彼方だったのですが、数ヶ月後たまたま近所の本屋で再会。
本当に疲れる、ただただ疲れるミッションも振り返ると楽しい思い出。それも相まって家に連れて帰ったのでした。


描かれる時代と現代の上野駅、それぞれ変化した部分はありますが、この漫画を読んでいると、ああ、繋がっているんだなというシーンがいくつも。
グランドステーションと呼ばれる所以であろう中央コンコースは、昔からの姿を現在もとどめています。
善も悪も老いも若きも犬猫も、世の中の全てが交錯する駅というのは本当に不思議な場所ですね。

鉄道公安という仕事があったということをこの漫画で知りました。
民営化と同時に各都道府県警察の鉄道警察隊へ職務が移管されたとのことで、今やその存在を知る国民はどのくらいいるのでしょうか。
特別司法警察職員なので範囲は限定されてはいたものの、鉄道にまつわる事件はある程度捜査は可能だったようです。
作品内でもガッツリ刑事モノ然とした回もあります。
時代が時代なので、なかなか無茶なこともしていますが、それがまた臨場感があって良いのです。


私の祖父も国鉄の保線マンでした。
民営化された直後くらいに退職だったかな。
いつも仕事から帰ると、泊まりに来ていた私に『僕ぅ〜いるかぁ?』と言い、スポロガムという当時江崎グリコが販売していたオマケ付きのお菓子をくれたことを今でも覚えています。

加えて、母の実家がある街は東京で走る電車を作る工場があります。
何十年かすると、都会でのお勤めを終えて故郷で余生を走る列車達、と言えば鉄道ファンの方ならどこの街かお気付きのことでしょう。
そんなこんなで私は特段鉄道ファンではないのですが、この作品にはどこか親近感を感じてしまいます。

飛行機、バス、電車、人力車。旅の公共交通機関は数あれど、私は電車の旅が一番好きです。あのいちいち駅に止まるところにいちいちドラマを感じてしまうのです(唯一酔わない交通手段というのもありますが)。
福岡くらいなら飛行機ではなく新幹線派です。


悲しくて優しくて懐かしくて、とても不思議な漫画。
鉄道ライターでもある著者の知見をフルに生かした作品作りは必見。
ともすれば『マニアック』の一言で終わってしまいかねない情報を作品の要として、鉄オタでない人にも感動を与える力を引き出すスパイスにしているのは著者の真骨頂です。
全2巻なのも手に取りやすいところ。
第1話が公式サイトでupされているのでまずはそちらでお試しあれ。
仕事納めと大掃除が終わったらコタツでゆっくり読んでいただきたい名著です。